この記事の概要
永遠の0ラバウル(5)では、優秀な搭乗員は、連日の空戦のために鍛錬を行っている。戦場では、死ぬことより生き残るということがいかに大事かを井崎は宮部から教わる。自分の運命を運に任せてはいけない。
1. 克己心
二十歳前後の若者は、性欲がある。兵士たちは自慰行為や慰安所で性欲を開放していた。二十歳前後の若者でも自慰行為を禁ずるところがある。
戊辰戦争で敗れた会津藩は、慰安所に通うことはご法度だった。歴史のたらればは、無いのだが、会津が勝利していれば、現在の慰安婦問題は生じていなかっただろう。
辺境の地ラエには、慰安所はなかった。
井崎が釣りに行った帰り草むらから、うなり声が聞こえてきた。声のする方へ忍び寄ってみたところ一人の男が何かを持ち上げていた。男は宮部小隊長だった。壊れた銃身をつかみ何度も持ち上げていた。
今度は木の枝に足をかけ、逆さ釣りになり腹筋を鍛えていた。バーティカルシットアップだ。これは、腹筋を鍛える中でも最もきついシットアップの種類だ。
また長い間、宙づりになっていた。空戦のGに耐えるためだったのだろう。空戦の時には物凄いGがかかって操縦桿が重くなる。Gとは操縦中ににかかる重力のことだ。
井崎が銃身を持ち上げようとしたが、地面に張り付いて全く上がらなかった。宮部一飛曹の華麗な操縦技術は、この怪力にあったのだ。
凄腕と呼ばれるパイロットたちは、自慰に頼らずとも、克己心が強いので自分をコントロールしていたのだろう。そうでないとしたら、空戦で生き残ることができない。
鍛錬を終えて二人で話をしているとき、こんなことは皆やっている。坂井さんも西澤さんもやっている。誰も皆が見ている前で鍛錬なんかしない。確かにそうだ。鍛錬は、人が見ている前では、恥ずかしくなる。
鍛錬は、楽ではないが死ぬことの苦しさに比べたら何ほどでもない。毎日、出撃した日も鍛錬を怠っていなかった。筋肉がオーバーワークになるのではないだろうか。毎日行っても大丈夫なほど、付加はあまりかけていなかったのだろう。
出撃した日の夜は、動くのも嫌になるほどだったが、それでも鍛錬を怠っていなかった。
2. 妻と娘の写真
宮部はおもむろに胸ポケットから布袋を取り出した。中から1枚の写真が出てきた。宮部は、井崎に宝物のようにそっと渡した。井崎は、両手で丁寧に受け取った。若い婦人が生まれて間もない赤ん坊を抱いている写真だった。
写真の女性は綺麗な人だった。妻は松乃、娘は清子だった。ミッドウェイー海戦が終わってすぐに生まれた子だった。ミッドウェーの生き残りは、しばらく軟禁されたため帰国できなかった。子供にはまだ会っていない。
辛い、もう駄目だと思ったとき、この写真を見ると生きる勇気が出てくる。「娘に会うためには何としてでも死ねない」と宮部はつぶやいた。普段の温和な顔と違って恐ろしい形相だった。
3. 井崎が小隊長宮部を見る目が変わった
生き残るということがいかに大切なものであるか百万の言葉より教えられた気がした。その日から、宮部小隊長の言うことは何でも聞くようになった。
出撃前に「絶対編隊を崩すな!どんなことがあっても自分から離れるな!」井崎が宮部の孫(健太郎と慶子)たちとこうして話ができるのは、宮部の教えを守って来たからだった。
空戦はどこで撃たれるかわからない。流れ弾も飛んでくる。打たれたらそれも運だろうと諦めていた。だが、宮部は自分の運命を運に任せられなかった。
井崎は、坂井一飛曹のような撃墜王のようになりたいと思っていたが、宮部の列機になって生き残ることの方が大事だと思うようになった。
華やかに見える部分から、渋い大人の感覚に変化していったのだろう。
4. ガタルカナルの戦い

(ウィキペディアから引用)
ガタルカナルこそ搭乗員にとって地獄の幕開けだった。ガタルカナルはソロモン諸島に浮かぶ小さな島だ。
ラバウルにあるニューブリテン島からさらに東にある。ジャングルに覆われた未開の孤島だ。
ガタルカナルに飛行場を作って不沈空母として南太平洋に睨みを利かせようとした。昭和17年に飛行場の設営を始めようとしていた。飛行場が完成したら、ラバウルの飛行機をガタルカナルに移す予定だった。
海軍設営隊が未開のジャングルを切り開き、一か月かけてようやく飛行場を創りあげたとたん、ガタルカナルはアメリカの猛攻撃を受けて、完成したばかりの飛行場を奪われてしまった。
アメリカ軍は滑走路ができるまでずっと待っていた。騎士道を持っていないんだな。こんなやり方をするとは。
ガタルカナルにいた日本軍は、ほとんどが設営隊だったから、戦いに勝ち目はなかった。日本軍はあっという間に全滅してしまった。
大本営もこんな小さな島をまともに攻撃してくるとは思ってもいなかったのだろう。この名もない島が、太平洋戦争の最大の激戦地となったのだ。
昭和17年8月7日、この日が運命の日だった。ラエから半数の搭乗員がラバウルに帰還させられていた。ガダルカナルが、アメリカ軍に落されたことを知り急遽、敵輸送船団を攻撃することになった。
当時、搭乗員の中に、ガタルカナルを知る者はいなかった。ガタルカナルの対岸にあるツラギ島の日本軍は玉砕したとのことだった。
玉砕するのは、日本人とユダヤ人だけらしい。
ラバウルからガタルカナルまで560カイリ(1,000キロ)もある。
「無理だ」宮部がつぶやいた。「こんな距離では戦えない」
一人の若い士官がそれを聞いて怒りだした。宮部の顔面をいきなり殴り始めた。この物語のように、軍部はすぐに暴力を振るったのだろうか。しかし士官という身分だけで威張り腐っていたのはたくさんいたのだろう。
「今度の戦いは、これまでとは全く違ったものになる」と宮部は行った。
560カイリは零戦が戦える距離ではない。
制空隊に選ばれたのは、笹井中尉、坂井一飛曹、西澤一飛曹、太田一飛曹をはじめとするラバウルの猛者たちだった。選りすぐりの18人が、この戦いに選ばれた。宮部の名前はなかった。当然、井崎の名前もなかった。
坂井一飛曹は天才的な撃墜王だった。昼間の星が見えたというくらい目の良い人だった。空戦技術は、入神の域に達したと思えるくらいだった。
27機の一式陸攻と18機の零戦が飛び立ったが、1機の零戦は発動機の不調で戻って来た。巡航速度で片道3時間、現場では10分ほどの戦いになる。帰りの燃料を考えると、それ以上の空戦は危険になる。それだけ560カイリという距離が、難しいものだった。
まとめ
空戦で生き残るためには自己鍛錬をかかせてはならない
戦場では死ぬよりも生き残ることの方が大切だ
ガタルカナルの戦い
紹介

作品紹介
546万部突破の歴史的ベストセラー作品、百田尚樹著『永遠の0(ゼロ)』がオーディオブックで登場!
司法浪人生である佐伯健太郎が、フリーライターである姉・佐伯慶子と共に
太平洋戦争の際に特攻で戦死した祖父・宮部久蔵の人生を解き明かしていく、壮大な愛の物語。
オーディオブックでは、人気声優の江口拓也、櫻井孝宏、豊口めぐみ、そして女優の小芝風花ら豪華出演者により
ストーリーを忠実に表現し、音のみの世界によって想像力をより掻き立てます。
映画、テレビドラマ、漫画でも親しまれる人気作を、より原作に忠実に制作したオーディオブックでじっくりとお楽しみください。
【あらすじ】
物語の主人公・佐伯健太郎は、祖母の葬儀の日に実の祖父・宮部久蔵の存在を知らされる。
零戦パイロットとして天才的な操縦技術を持ちながら、生きることに執着し、
仲間から「臆病者」と蔑まれた宮部の実像を調べようと、健太郎は彼を知る人たちを訪ね歩く。
「家族の元に帰る」ことを妻・松乃と娘に誓った宮部がなぜ特攻を志願したのか、
その謎が健太郎の手により解き明かされていく。
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