この記事の概要
永遠の0ラバウル(4)では、井崎は、宮部から命の大切さを教わる。「例え敵機を撃ち漏らしても生き残ることができれば、また敵機を撃墜する機会はある。しかし、一度でも落とされれば、それで、もうお終いだ」と。
1. ラバウルでは毎日が空戦
宮部がラエにやって来たのは17年7月の半ばだった。ラバウルには、内地から搭乗員が送られてきた。その中には母艦乗りだった者もいた。
ミッドウェイー海戦で空母4隻が沈められた噂は搭乗員の間で広まっていたが、まだ深刻にはなっていたんかった。当時の搭乗員たちは零戦さえあれば負けないと信じていた。
第一航空隊の戦闘機乗りたちがいると聞いて、皆競争心が掻き立てられた。母艦乗りは毎日、空戦することはないだろうが、ラバウルの空では、毎日空戦しているという意地があった。
第一航空隊が一番優秀な搭乗員たちだったなら、母艦を沈められるようなへまはしなかっただろうとも皆、思っていた。
2. 宮部の階級
宮部は背の高い人だった。階級章は一飛曹だった。下士官の一番上の階級だ。井崎は宮部の丁寧な言葉遣いに戸惑いを覚えた。軍隊は階級がすべてだ。一飛曹と一飛兵では大きな隔たりがあった。
中国大陸での戦い方は一対一の空戦だったが、ここラバウルでは、無線を使って編隊同士の戦いだった。中国大陸から来た搭乗員は、一対一だと思って深追いすると他の敵機に撃ち落されてしまうことが多々あった。
3. ポートモレスビーへ出撃
飛行機乗りにとって雲は嫌なものだった。敵が見えないからだ。そのため雲の中から突然現れた敵機にやられることがあった。この場合は待ち伏せする迎撃側が有利だった。宮部は常に周囲を見張っていた。背面飛行を何度も行い、死角の下方を確認していた。
井崎の宮部に対する感じ方は用心深い人だなと思った。用心深さは度を越していると思った。
4. オーエンスタンレー山脈
4,000メートル級の壮大な山脈。ニューギニアを縦に真っ二つに遮る山脈だ。この山脈をはさんで、南にポートモレスビーがあり北にラエがあった。井崎はこの山が好きだった。何か旬艶な美しさを感じていた。
山から受ける独特な波動なのだろうか、井崎は山の上を通過する度に勇気を与えられていたのだ。
5. 奇襲攻撃されても
突然の奇襲を受けた。井崎は背中を見せる格好となり「やられる」と思った。その時、狙われそうになった敵機が撃ち落された。直ぐに目の前を零戦が通り過ぎたかと思うと瞬く間に敵戦闘機が撃ち落されていった。
「何という凄腕、何という早業」と井崎が感嘆するほどだった。人には何か優れた技がないと尊敬されないものだ。
井崎は、ポートモレスビーの攻撃を終え帰還したとき、宮部にお礼を言った。宮部は雲の隙間の敵機が雲の隙間から見えていたのだ。
出撃していた搭乗員たちは、ラバウルの猛者たちだったが、彼らでさえも気が付かないことを宮部は察知した。「これぞ一級の搭乗員だ」と井崎は、敬服するほどだった。
6. 敵を倒すより生き延びることの大切さ
ところが、乱戦となると物足りないものを感じていた。奇襲を受けた時のように積極的な戦いぶりではなかった。隊長機を援護するのに徹するだけのような感じだった。敵を撃ち落とすより自分が撃たれないようにしているように思えた。
宮部の慎重さに対して、多くの搭乗員が臆病者だと笑うようになった。ところが一人だけ笑わないものがいた。西澤一飛曹だった。するとそこにいた全員が黙ってしまうほど西澤一飛曹の言葉には力があった。本物は本物の値打ちが分かる。
西澤一飛曹は、後にラバウルの魔王と呼ばれるようになった。
この時、井崎の宮部に対する気持ちは、臆病者という気持ちの方が強かった。宮部の慎重ぶりは度が過ぎていると思った。空戦域に長く留まろうとしなかった。小隊長が空戦域を離脱すると列機も離れざるを得なかった。
小隊長機を離れて敵機を深追いしたときがあった。その敵機を撃ち落としたのだが、二機の敵機に追い込まれていた。そのとき一機は撃墜されもう一機は逃げていくのが見えた。その時一機の零戦がいた。小隊長機だった。井崎が宮部に命を救われたのは、これで2度目だった。
宮部:「いいか、井崎。敵を落とすより、敵に落されない方がずっと大事だ」
井崎:「はい」
宮部:「アメリカ人一人の命と自分の命を交換するか。」
井崎:「いいえ」
宮部:「では何人くらいの敵の命と交換してもいい」
井崎:「十人くらいならいいでしょうか」
宮部:「ばーか」(笑って)、ザックバランに応えた。「手目の命はそんなに安いのか。例え敵機を撃ち漏らしても生き残ることができれば、また敵機を撃墜する機会はある。しかし、(笑いは消えて)一度でも落とされれば、それで、もうお終いだ」
井崎:「はい」
宮部:「だから、生き延びることを第一に考えろ」
(永遠の0から引用)
井崎はこの時の言葉が、心にずっしりと響いた。死を覚悟した後だけに余計に受け止めることができたのだろう。井崎が何度も空戦で生き延びることができたのは、宮部小隊長のおかげだった。
まとめ
命を守るときの宮部の凄腕と早業
無用な空戦には積極的に参戦しなかった
敵を倒すより、生き延びることの大切さ
紹介
戦空の魂 [少年向け:コミックセット]546万部突破の歴史的ベストセラー作品、百田尚樹著『永遠の0(ゼロ)』がオーディオブックで登場!
司法浪人生である佐伯健太郎が、フリーライターである姉・佐伯慶子と共に
太平洋戦争の際に特攻で戦死した祖父・宮部久蔵の人生を解き明かしていく、壮大な愛の物語。
オーディオブックでは、人気声優の江口拓也、櫻井孝宏、豊口めぐみ、そして女優の小芝風花ら豪華出演者により
ストーリーを忠実に表現し、音のみの世界によって想像力をより掻き立てます。
映画、テレビドラマ、漫画でも親しまれる人気作を、より原作に忠実に制作したオーディオブックでじっくりとお楽しみください。
【あらすじ】
物語の主人公・佐伯健太郎は、祖母の葬儀の日に実の祖父・宮部久蔵の存在を知らされる。
零戦パイロットとして天才的な操縦技術を持ちながら、生きることに執着し、
仲間から「臆病者」と蔑まれた宮部の実像を調べようと、健太郎は彼を知る人たちを訪ね歩く。
「家族の元に帰る」ことを妻・松乃と娘に誓った宮部がなぜ特攻を志願したのか、
その謎が健太郎の手により解き明かされていく。